大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)97号 判決

被控訴人の先々代梅原久太郎は控訴人ら先代斎田胤智にたいし大正十年一月二十九日ころ本件土地を普通建物所有の目的で賃貸期間五ケ年の約束で賃貸したこと、その後右契約は更新せられ賃貸借関係は継続していたが、昭和十五年九月十二日前記賃貸人の承継人である被控訴人先代梅原英雄と控訴人ら先代斎田胤智との間の公正証書(乙第二号証)を作成し右土地につき期間を同年九月一日から昭和十八年八月三十一日までとし普通建物所有を目的とする賃貸借契約を結んだことを認めることができ、右「九月一日から」というのは九月一日を賃貸期間の初日に算入する趣旨と認めるべきこと本件弁論の全趣旨から明らかである。

ところが、昭和十五年九月二十六日から伊東市に借地法が施行せられたので同法第十七条第一項により右賃貸借の期間は法律上当然に昭和十五年九月一日から(初日を算入し)満二十ケ年となるものといわなければならない。

そうすると昭和十八年十一月六日なされた本件調停は目的たる土地について賃貸借がなお存続しているうちであるにかかわらずあえてなされたものといわざるをえない。

右調停の調書記載の調停条項中「申立人(被控訴人)ハ相手方(控訴人ラ先代斎田胤智)ニ対シ本件土地ヲ昭和十八年九月一日ヨリ向ウ十ケ年間賃貸スルコトトシ期限到来ニ依リ相手方ハ土地明渡ヲナスコト」とあつて、これが本件強制執行の基本なのであり、被控訴人はこの十年は賃貸借期間ではなく、土地明渡の猶予期間であると主張する。ところで、当審および原審の証人梅原やす、稲葉兵吉当審証人佐藤英一、同金原藤一の各証言によれば、被控訴人においては、十年後には必ず土地明渡をうけ得るものと確信して調停条項を承認したことは認められるけれども、原審証人中島近江同稲葉兵吉の証言と本件の弁論の全趣旨を考えあわせると本件調停は賃貸借が期間の満了によつて昭和十八年八月末日消滅したことを前提とする土地明渡請求の調停申立によつて成立したものであつて、当事者、調停主任判事、調停委員などの関係者は、従前の賃貸借が期間満了によつて昭和十八年八月末日終了したとの前提のもとに話し合いをすすめて調停成立まで、はこんだものとみとめられることと、十年というような長期間の明渡猶予を約定することも無理ならぬことをなつとくし得るとくべつな事情がみとめられないこと、さらに、十年の期間を定めるにあたつて、当事関係者によつて従前の賃貸借の終了の日と考えられていた昭和十八年八月三十一日の翌日から十年間としたことおよび前記調停条項のことばづかいをあわせ考えると、この条項は、従前の賃貸のあとにさらに続けて十年間は賃貸するとの合意であると解するのが相当である。十年の期間が土地明渡猶予期間であるとの被控訴人の主張は採用することができない。

そうすると、この調停でできた契約はどういう意味をもつことになるかというに、賃貸借が存続中に重ねて同一の目的物について同一当事者においてさらに賃貸借をする合意をしたことはなんらの意味を有せず、ただ昭和十八年九月一日から十年間を賃貸借期間とし、その満了のときは土地を明渡すことを約する旨の合意部分のみは従前の賃貸借存続中であることとムジユンしないので、調停において成立した合意は結局賃貸期間を短縮することを約した限度にかぎると解するのが相当である。ところで、かような合意は、借地法第十八条第十一条によつて「之ヲ定メサルモノ」とみなされるのである。

なお被控訴人は本件調停の合意が、これによつて、借地法第九条の一時使用のため借地権を設定したものであるから有効であると主張するけれども、この調停の合意が借地権設定の合意としてなんらの意味をも有しないこと前段説示のとおりである以上その理由ないことおのずからあきらかである。

(藤江 谷口 満田)

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